「これでええねん」
「久しぶり! 今日ヒマ?」
幼なじみのTが結婚することになり、フィアンセを連れておぢばにやってきました。天理に初めて来たという未信の彼女を神殿案内した彼は、もうひとりの幼なじみMに会いに行く前に、私に電話をかけてきたのです。
Tは「俺、天理教やねん!」と自信を持っているタイプで、彼女は宗教への抵抗はなく物腰の柔らかい笑顔美人。彼のおかげで天理教の印象はかなり良いようです。ほほえましいカップルでした。
3人で談笑しつつ向かうMの家は、家族揃って熱心に信仰している教会です。
参拝を終え、久しぶりに会うMとご家族を交えて会話に花を咲かせていると、彼女が壁に貼られていた1枚の紙に興味を示しました。十全の守護を説明した、大きな紙です。
神名、身の内での守護、世界での守護、泥海中での姿……。「これはなんですか?」と言う彼女に対し、私が自信満々に説明を始めようとしたそのとき、Mのおじいさんである前会長さんが割り込んできました。
「これはな、名前が10個あるやろ? ほんで、人は指が10本あるやろ? これをな、5本ずつ合わせて、合掌。……これでな、ええねん」
私はあっけにとられました。
「夫婦もな、これでええねん」
説明はそれだけ。部屋全体があたたかな笑いで包まれました。そのときの前会長さんのなんとも言えない優しい顔が、今も忘れられません。
「くにとこたちのみこと様は……」と丁寧に説明しようとしていた私。
「両手を合わせて、これでええねん」と仰った前会長さん。
私はここに、長年おたすけを続けてこられた尊い人格を見ました。
おやさまの教えを正しく求めていくことはとても大切ですが、それを踏まえて、目の前の人を勇ませる表現も身に付けなくてはいけない。「これでええねん」で得心させるにはよほどの経験と年限がいりそうですが、目指すべき地点の1つを与えていただきました。